耐震

これまで大きな震災があるたびに、法改正などによって建物の耐震性強化が図られてきました。木造住宅においても必要な耐震壁の量や構造部材(柱、梁、筋交い等)の接合方法などが明確化されてきています。
しかしながら大地震に対して住宅の安全を保つためには、建築基準法の構造規定を満たすだけでは不十分です。住宅性能評価などでも建築基準法以上の性能基準が定められていますが、ただやみくもにそれらの条件を満たすだけでは良い設計とは言えません。
設計の初期の段階でしっかりとした構造計画を立てることによって、構造的にバランスが良く自由な間取りとすることが容易になります。
また建築基準法では、振動については現在のところ特に具体的な規定はありませんが、大型車両が頻繁に通る道路に隣接した敷地などでは震度1程度の揺れが日常的に生じる場合があり建物の寿命にも影響します。このような場合は地盤改良や建物を重くして振動を抑えるなどの対策を検討する必要があります。

2020.11.16 改訂


【耐震等級について】

住宅性能表示制度では耐震性能について、耐震等級を3段階に設定してその性能を評価しています。(耐震等級の数値が大きいほど耐震性に優れている)大地震・中地震に対してどの程度耐え得るものとするかで耐震等級が決まります。

大地震とは:
数百年に1度程度発生する地震。東京の場合、およそ震度6弱(旧震度6)から震度6強(旧震度7)程度に相当する。
中地震とは:
数十年に1度程度発生する地震。東京の場合、およそ震度5強程度に相当する。

◆耐震等級1◆
大地震に対して倒壊しない程度。
中地震に対して損傷しない程度。

◆耐震等級2◆
大地震に対して、等級1で耐えられる地震力の1.25倍の力に対して倒壊や崩壊などしない程度。
中地震に対して、等級1で耐えられる地震力の1.25倍の力に対して損傷しない程度。

◆耐震等級3◆
大地震に対して、等級1で耐えられる地震力の1.5倍の力に対して倒壊や崩壊などしない程度。
中地震に対して、等級1で耐えられる地震力の1.5倍の力に対して損傷しない程度。

建築基準法の要件を最低限満たすものは耐震等級1に相当します。(厳密には耐震等級1の約0.75倍、下記参照)これは大地震で倒壊する可能性もあり、倒壊こそしなくとも、かなり傾いたり激しく損傷したり、状況によっては余震で倒壊するなど、避難に影響が出たり復旧が不可能な状態になることが想定されます。
最低でも耐震等級2、地盤の悪い土地では耐震等級3レベルの耐震性能がほしいところです。
さらに大地震においても軽微な損傷で済ませるためには、良好な地盤の土地で耐震等級3、地盤の悪い土地では耐震等級3を超える性能とすることが理想的です。未曽有の災害に耐え、大がかりな補修をすることなく末永く建物を使用することを考えるには、過剰とも思える設計が必要かもしれません。

(以下、2018/2/28㈱インテグラル特別セミナー時の大橋好光先生、山辺豊彦先生の講義を受けて2018/3/2追記)

【必要壁量について】

(基準法の必要壁量は2018年現在のものです(1981年に改訂))
性能表示では「耐震等級1=建築基準法による必要壁量を満たす住宅」とされていますが、算定によって確認できるのは耐震等級2以上の必要壁量です。また、耐震等級2を満たす為に必要な壁量は、建築基準法による必要壁量×1.25以上とされています。
上記から、耐震等級2の必要壁量を1.25で割り返してあげれば耐震等級1の必要壁量となります。
基準法で算出した必要壁量と上記方法で算出した耐震等級1の必要壁量を比較すると基準法の必要壁量は耐震等級1の約3/4(75%)しかありません。(総2階の場合)
ちなみに性能表示による計算よりもっと現実的な構造計算を行っても、耐震等級2から割り返した値と結果はほぼ同じになるそうです。
地震力は同じ条件なのになぜこのようなことになるのかというと、前提としている建物の重さが基準法と性能表示で違うためなのだそうです。
計算には前提として建物の各部の重さが必要となるのですが、基準法で用いられる値が性能表示や構造計算の値より軽くされているのです。
構造計算は鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物にも用いられるものです。
つまり基準法では「木造住宅は弱くて良い」という設計法になっているのです。

【建築基準法の想定する地震力】

建築基準法の想定する大地震は加速度でいうと「300~400gal」と言われてきました。
兵庫県南部地震(1995年、阪神・淡路大震災)の揺れは、神戸海洋気象台波(JMA神戸波)では
3成分合成 最大891.0gal
南北方向  最大818.0gal
東西方向  最大617.3gal
上下方向  最大332.2gal
と、基準法の想定する大地震よりもかなり大きかったのです。(基準法の1.2~2倍)
基準法をギリギリに満足するような住宅は、倒壊してもおかしくありませんでした。にもかかわらず、現代の木造住宅は大きな被害を被ることがなかったのです。
これは石膏ボードやサイディング(釘打ち)などの非耐力壁、いわゆる「雑壁」が効いていたためということが分かりました。
熊本地震(2016年)の被害調査では、雑壁がなく基準法をギリギリに満たしている建物は大きな被害を受けていることが分かっています。
現在、品確法では一定の基準を満たした雑壁を「準耐力壁」としています。
また熊本地震では筋交いの圧縮による座屈破壊や引っ張りによる金物付近での割裂が多くみられ、被害を受けた住宅のほとんどがこれによるものでした。
構造用合板でも釘が合板から頭抜けをする事例もあります。ただし合板の場合は、打ち付けられている釘の本数が多いため、数本頭抜けをしても筋交いほど耐力が低下することはありません。

【どの程度の耐震性能を設定するのか】

現在の基準法に合った壁量があり雑壁による余禄のある住宅であれば、大地震においても完全にぺしゃんこに潰れることはほぼないと言えそうです。となると今度はどの程度の損傷に抑えるかという基準を決めなければいけません。考えられる損傷の度合いは、損傷の大きなものから

1.倒壊寸前までゆがむが、倒壊前になんとか抜け出せる。(要建て替え)
2.かなりゆがむが、余震でも倒壊まで至らない。(要建て替え)
3.ゆがみは少ないが、壁やガラスなどの大部分がひび割れる。(要大規模な修復)
4.ほぼゆがみはない。仕上材のひび割れ程度。(要補修)
5.ゆがみなし。仕上材の微細なひび割れ。(要軽微な補修)


地盤の良し悪しもありますが一般的な軟弱度の地盤(第2種地盤)であれば、程度の差はありますが耐震等級3の住宅で上記4.程度の損傷で済むとされています。一方、基準法ギリギリでは1.~2.となります
耐震等級3まで性能を高めるのに必要な費用は数十万円(合板や筋交い、金物による強化)です。地震保険は全壊で満額支払われても同じものは建築できません。
家を末永く使いたいなら最低でも耐震等級3を目標とした方が良いでしょう。

【耐久性のバランス】

仮に建物の上部を強化して100年の仕様に耐えられるようにしたとします。しかし基礎が30年しかもたないようでは意味がありません。全体をバランスよく設計することが大切です。
以下は個人的なメモです。(山辺先生の講義より)
基礎の寿命を考えるにあたって、基礎立上り上部の主筋の劣化から考える。
通常、基礎上部の鉄筋に対するコンクリートかぶり厚は30mm。コンクリートは時間と共に表面から中性化が進み、中性化が鉄筋部分にまで達すると、鉄筋がさびてひび割れが発生する。
中性化の進行度は水セメント比でコントロールできる。
耐用年数・強度・養生期間
30年・Fc18・W/C≦65%・5日以上
65年・Fc24・W/C≦55~58%・5日以上
100年・Fc30・W/C≦49~52%・7日以上
200年・Fc36・W/C≦55%・7日以上(かぶり厚10mm増しならFc30)
※水セメント比が重要なので打設時の天候に注意。降雨時すぐに養生できるように準備をしておく。

【これからの木構造住宅】

日本の住宅の寿命は30年程度と言われています。地震や火災、高温多湿な気候による木材の腐朽(ふきゅう)により老朽化が急速に進むためです。
しかし近年、度重なる震災のたびに木造建築の強化が検討され、防火材料の普及が進み、建物の高気密化によって木材の腐朽も抑えられるようになってきました。
国でも長年にわたって使用できる住宅の普及を促進するため長期優良住宅認定制度(平成21年施行)を設けています。

私は現在の木造技術であれば2世代・3世代にわたって使用できる住宅をつくることも可能であると考えています。もちろん今までのやりかたと比べて手間と時間がかかり、建材も性能の良いものを使用するため建設費用がかさみますが、1坪40万円のものを3回つくるのと、1坪80万円のものを1回つくるのではどちらを選ぶでしょうか?またエアコン1台で全館冷暖房をした場合と各部屋にエアコンを1台ずつ設置した場合では、年間の電気代はもちろん買い替えるエアコンの台数を思えばその費用の差はご想像できると思います。

2世代・3世代で使用する住宅となると永続・持続可能性を考慮した構造とすることも重要です。建物より寿命の短い設備機器のメンテナンスや、家族の成長や世代交代による部屋の使い方の変化などに簡単に対応できる構造としなければなりません。間取りを簡単に変更できるようにスケルトン・インフィルの手法を取り入れることを検討してみるのもいいかもしれません。

スケルトン・インフィル:建物の柱・梁・床などの構造体(スケルトン)と建物内の間仕切り壁や設備機器など(インフィル)を分離した工法。構造体以外の部分は自由に壊したり追加したりすることができる。主に鉄筋コンクリート造のマンションなどに用いられる設計手法。

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