あかり計画


[超高性能2世帯住宅]
 

光で遊ぶ

幅4mの南側道路を挟んで、すぐ向かいにアパートのある立地です。アパートの玄関がすぐ見える位置にあるので、窓の部分には日中でもなんらかの目隠しをする必要がありました。
そのため視線が気にならない範囲にハニカムスクリーンを閉めて生活しています。

ハニカムスクリーンの障子のようにほんのりとした明るさが落ち着きます

近頃は明るい部屋が人気ですが、昔の和風建築のように外の光を招き入れて徐々に暗くなっていく空間が私は好きです。
谷崎潤一郎の陰翳礼讃(いんえいらいさん)を読むと日本の美的感覚について、いろいろ再発見することができます。

【CGでイメージする】

日中は視線を遮るためほぼスクリーンを閉めっぱなしで、昼でも照明をつけて生活することを想定していたので、照明器具の配置や機種の違いによる部屋の印象づくりについては入念に検討しました。
まず初めに図面上でシーリングダウンライトを基本にペンダントライト、ブラケットを配置して、CGパースで照度や色温度の大まかなバランスを確認しました。

照明器具の種類はもちろん、設置する位置光の色等で部屋の雰囲気はガラッと変わります
ダウンライト一つとっても、壁からどのくらい離して設置するか、ほかにどんな照明と組み合わせるかによって印象が違うものになります。

以下、同じような画像が並びますが、8帖の部屋でダウンライトの設置位置等による印象の違いをCGにしてみました。テーブルや椅子の影に注目すると違いが分かりやすいです。
一般的な昼光色LED照明のシーリングライト1灯による照明ですと右図のような感じです。

【左列:壁からダウンライトを450mm離して設置】

部屋の四隅を中心に、主に壁上部を照らすような感じになります。CGでは分かりにくいですが、壁の抵抗感がなくなるような感じがします。
部屋の中心部は暗くなりますが、部屋が広く感じます。
(以降、四隅のライトは60W相当電球色LEDを想定しています)

【右列:壁からダウンライトを910mm離して設置】

部屋全体を均一に照らすような感覚です。
テーブル上面にも光が届くので比較的明るく感じます。

部屋のセンターに100相当集光タイプの昼光色LEDを想定したダウンライトを追加しました。
部屋中心部の明るさを補いつつ、部屋の広がりを感じることができます。

テーブルを中心として部屋全体が明るく照らされます。

センターの照明を40W相当集光タイプの昼光色LEDを想定したペンダントライトに変更してみました。
明るく照らされた壁とテーブル、メリハリのある、明るさの変化に富んだ部屋となります。

テーブルが強調され、周囲が若干暗めに感じます。

以下、四隅のダウンライトにこだわらないバリエーションです。

センターのダウンライトだけを点灯したイメージです。
集光タイプのライトに照らされてテーブルが際立ちます。

センターのペンダントライトだけ点灯したイメージです。
更にテーブルが際立ってドラマチックな感じです。

4灯のダウンライトをセンターに寄せてみました。
シーリングライトに似たような照らし方となっています。

左右の壁から450mm、奥の壁から150mm離して集光タイプのダウンライトを3灯と、テーブル上にペンダントを配置したイメージ。
何も飾りをつけなくても正面の壁がアクセントとなります。
最初のシーリングライト1灯のものと比べてください。こんなにもイメージが変わります。

【ショールームへ行く】

CGでイメージを固め、カタログで機種を選択したうえで、実物や照度を確認するためパナソニックリビングショウルーム東京を訪れました。この汐留にあるショールームでは、カタログに掲載されている商品の実物を、ほぼ全て確認することができて、LDKや寝室などシーンに合わせた照明の効果を体験することができます
実際に実物を見たり体験することで、自分がイメージしていたのと違う部分に気付くことができます。
事前に用意していた図面をもとに、変更した部分や決定しきれていなかった部分について打ち合わせをして、プランシートを作成してもらいます。

ショールームへ行く前には、出来る限り詳細な部分まで検討しておきましょう
配置形状はもちろん照度色温度(光の色)、集光・拡散調光の有無(照度・色)、センサーの有無(人感・明暗、段階的消灯)、点灯のグループ分け(LDKなど)、スイッチの位置など。
それぞれの照明について、上記を検討しつつ型番を決めていきます。型番まで決めておくことで、見積もりを取る前におおよその予算を検討することができます。施工業者とざっくばらんに話ができるのであれば、定価の何割ぐらいで考えておけばよいか尋ねるとたいがい教えてくれるので検討しやすくなります。
実際そこまで準備していても、実物の確認、照度の体験、変更などの打合せをするのに3時間程かかりました。
ノープランで行って、実物を見ながら決めようとすると何度も足を運ぶことになり、途方もない時間を費やすことになります。一度の訪問で済ませるには入念な下準備が必要です。
また建物の図面があれば、インテリアコーディネーターにお任せで照明プランを作成してもらえるサービスもありますが、希望するイメージをある程度伝えることができると良いかと思います。

ショールームで打ち合わせをすると下のようなプランシートを作成してもらえます。

1階プラン

2階プラン

これを工務店などにわたすと、工事の進行がスムーズになると思います。
壁や天井の防湿シート、石膏ボードを張る前に配線をする必要があるので、上棟が終わるころまでには決定しておきます

【照明器具選択のコツ】

■希望のイメージを作る
雑誌やインターネットでは参考となる写真が数多く紹介されています。また、ふと訪れた喫茶店などのお店で気に入った雰囲気があれば、了承を得て写真を撮らせてもらうのもいいでしょう。
映画やテレビドラマなどでも素敵な部屋を見ることがあると思います。
常にアンテナを張ってキョロキョロしているうちに、自分の理想が出来上がってくるはずです。

■値段に臆さない
「ダウンライトにすると個数が増えて高そうだからシーリングライト1個でいいかな」と言う声をいまだに耳にします。本当はダウンライトでシーンに合わせたライティングを楽しみたいのに、「高そう」と言う先入観で最初からあきらめてしまう人も多いのではないでしょうか。
また、工務店などにおまかせにすると、無理やり予算に合わせたようなちぐはぐなものになってしまうこともあります。まずは自分のイメージをしっかり伝えて、なるべく希望に合った提案をもらえるようにしましょう
そのうえで予算に合わないので別の形にするか、予算オーバーするけど理想通りにしたいなど決めればよいのです。
場合によっては予算内ですんなりおさまってしまうこともあるかもしれまsん。
最初からあきらめてしまうのではなく理想と予算の折り合いがつくプランを根気よく探しましょう

■条件を絞る
照明器具の分厚いカタログを前に、その中から器具を選ぶことを考えると辟易してしまうことと思います。
カタログを見ながらプランを考えると、中々まとまらず途中で嫌になってしまうでしょう。
そうならないために、あらかじめ全体のイメージや必要な機能を決めておいて、候補を絞ります。

・和風・洋風・シンプル・・・などイメージ
・形状(ダウン・シーリング・ブラケット)
・照度
・その他(センサー・調光など)


この程度の条件を決めるだけで、あの分厚いカタログであっても、条件に当てはまる商品は数点に限られてきます。
後はその中から気に入ったデザインの物を選ぶだけです。
条件を絞ると意外と希望に合ったものが無いもので、そういうときは条件を少し緩めて選択肢を広げて決定していく方法を取ります。

■計画の早い段階から考える
ここまでお読みいただいて、照明計画はものすごく時間がかかることがお分かりかと思います。
家を建てるときには、外壁や屋根や壁紙やいろいろ選ばなければならないことが多くて大変ですが、実は照明器具選びが一番大変なのです。そして大変なので後回しにしがちな部分です。後回したくなる心理として、照明はあまり重要ではないという意識もあるのかもしれません。
ですが、大半の人は昼は外で活動して夜は家に帰ります家にいるほとんどの時間は照明をつけて過ごすのです。だとしたら照明の計画というのは大変な思いをして時間をかけてでも考えなければならない重要な要素ではないでしょうか。

照明計画は間取りを考えるときからスタートすることができます。部屋の大きさ・天井の高さ・窓の位置や大きさ等を考えながら照明も一緒に考えればいいのです。そうすれば、例えばブラケットライト(壁掛け照明)を付けたいけれど窓があるから希望の位置に付けられないので照明優先として窓の位置をずらそう、などというプラン変更も早い段階でできます。
照明を後回しにしておいて照明以外のプランをガチガチに固めてしまい、後からそのような問題が出てくるとあきらめざるを得ないことなってきます。
照明は間取りと一緒に考えるようにしましょう

【CGと完成写真の比較】

CGパースによるシミュレーションを行いながら設計をしましたが、実際はどうなのか、照明器具の点灯の仕方による部屋の雰囲気の違いを、同じようなアングルで完成写真と比べてみました。


完成写真

ダウンシーリング:ON
建築化照明:ON
ペンダント:OFF

CGパース

テレビ上の棚に設置した建築化照明は、実物のほうがかなり明るくなっています。
※照明器具、ブラインド、テーブルなどは実物と同じような部品データがないため、なるべく近いもので代用しています。

ダウンシーリング:ON
建築化照明:ON
ペンダント:ON

結構現実に近いのではないかと思いますが、やはり実物は建築化照明が強烈です。

ダウンシーリング:OFF
建築化照明:OFF
ペンダント:ON

全灯ONのものではよく分からないのですが、CGは光がランプシェードを突き抜けてしまっていますね。
このソフトではこういう照明部品が多いです。ぜひとも改善してもらいたいですね。

【光で遊ぶ】

左は近隣の再生古民家の写真です。
土間部分の天井がすのこ状になっていて、農機具や藁などが保管出来るようになっています。
これをヒントに小屋裏収納の床をスノコにしました。
今回空気の流れのために採用したスノコ天井ですが、光と影の表情も楽しめるように計画しました。

家の中と外の光が影をつくり様々な表情を見せてくれます。

昼と夜ではまったく違う表情になります。

照明の点灯の仕方で変わる見え方。

カウンター上のみ点灯。

カウンター下の棚が影になり、キッチンの表情が強調されています。

カウンター手前のスポットを点灯。

手前の床が強調され、カウンター下の棚の表情が現れて、キッチンの様子が隠されます。


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