階間エアコンQ1.0住宅 冬の実力
階間エアコンを利用したQ1.0住宅の冬の状況について、以前このブログでご紹介いたしました。
階間エアコンとは
参考:階間エアコンのQ1.0住宅(冬)
1階天井内(2階床下)に設置した階間エアコンを使って、家全体を冷暖房する方法です。特別変わったものを付けるのではなく、家電量販店などで購入できる一般的な壁掛エアコンを使用しています。
今回は、この家で一冬を過ごした感想とエアコンの稼働状況などについて書きたいと思います。
我が家は、木造2階建て、延べ面積144.08m2+小屋裏34.79m2、に2世帯6人で生活しています。
基本的に冬季は階間エアコン1台で家じゅうを暖房できる設計となっています。
《住宅の概要》
《空調計画》
この冬は予備エアコンを使うことなく、階間エアコンのみで快適に過ごすことができました。
電気使用量など
下の表は2021年1月~2021年4月のエアコンの電気使用量です。
年 | 月 | エアコン電気使用量 | エアコン電気料金 | 家全体使用量 | 家全体電気料金 |
---|---|---|---|---|---|
2021年 | 1月 | 265kWh | 8,098円 | 830kWh | 22,835円 |
2月 | 153kWh | 4,689円 | 720kWh | 19,738円 | |
3月 | 67kWh | 2,037円 | 534kWh | 14,630円 | |
4月 | 33kWh | 994円 | 466kWh | 12,925円 |
エアコンの温度設定は23度で24時間稼働、室温は22.5度~24.0度程度となっています。
今年は3月に入ってから急に暖かくなり、桜の開花が例年よりかなり早かったですが、電気使用量からも急激な気温の変化が分かりますね。4月はほとんど送風で稼働している状態です。
QPEXで計算した1月~4月の暖房負荷は2,928kWhで、使用しているエアコンのCOP3.8で割ると期間中の消費電力が770.5kWhとなります。
実際に計測した消費電力の合計は518kWhと少なめですが、これは6人で生活しているため人や家電の量から発する熱量が、QPEXで使用している内部発生熱よりも多くなっていることによるものではないかと思われます。また、新型コロナウイルス対策によって外出することが少なくなり、家族が室内にいる時間が想定よりも増えていることもエアコン負荷の軽減につながっているのではないでしょうか。
このことから、夏の冷房負荷は逆に計算よりも多くなることが予想されます。
ちなみに、我が家の主な室内熱源は次の通りです。
人体6人、テレビ3台、TV録画機1台、冷蔵庫2台、ガスコンロ1台、IHコンロ1台、炊飯器2台、電子レンジ2台、オーブントースター2台、電気ポット1台、PC(タワー型)2台、PC(ノート)3台、掃除機2台、加湿器(スチーム式)2台
2世帯で生活しているため、家電の数は必然的に単世帯の倍近くを使用することになります。
内部発生熱が多くなる生活形態の場合、関東以南では夏の温熱計画が特に重要であることを改めて感じました。
温度・湿度などについて
【温度】
冬の室内温度に関しては、十分以上に快適です。
上下階や各部屋の温度差が2.0度未満の範囲で安定していて、トイレに行くために上着を着る必要もなくなり、家族一同が活動的になったように見られます。
体が慣れてくると2.0度程度の温度差で少し肌寒く感じますが、薄いシャツを1枚着れば全く問題ありません。
脱衣室・浴室については、「高断熱住宅はヒートショックの防止になる」などの言葉から寒くないという強いイメージが植え付けられていたようで、家族全員から「思っていたより寒い」との感想がありました。
服を着て生活している部屋と同じ23度程度の脱衣室で服の脱ぐのだから寒く感じるのは当たり前です。ましてやお湯を使って暖まった浴室から脱衣室に入ればなおさら寒く感じます。そういう意味では「高断熱住宅でも脱衣室・浴室は寒い」のは当たり前だと言えます。
ただ、断熱性能の低い家では5度の脱衣室が、高断熱だと23度程度に保つことができるので、健康へのリスクが低くなるのは事実です。
浴室の窓を設置しなかったのは、ひとつの解を得たように思います。
浴室と屋外の繋がりを求めるのは、温泉で露天風呂があると無性に入りたくなるように、ごく自然な欲求でしょう。内風呂では外の景色が見える窓を設けて屋外との繋がりを作ります。
魅力的な景色を期待できない条件で、浴室に窓を設ける理由は何でしょう?
・湿気を逃がす換気→換気扇
・明るさ→窓があっても入浴する夜は照明をつける
窓をやめたことで良かったことは、
・窓からのコールドドラフトが無くなったので浴室が暖かい
・結露やほこりなどのたまる部分がが無くなり掃除が楽になった
・外からの視線を気にする必要がない
・虫が入らない
景色が見えないという以外のマイナス要素が見当たらないのです。
もちろん入浴時はリラックスしてゆったりと過ごすために、窓から景色を眺めることができるというのは最高です。ですが、隣の家の壁しか見えなかったり、地面から生えるドクダミ草やブロック塀しか見えないような窓なら必要ないのではないでしょうか。
浴室に限らずトイレや洗面所もそうですが、惰性で窓をつけるのはやめにして、まず必要かどうか、必要ならばどの位置にどの大きさでどんな形状のものをつけたらいいか、十分に検討することが大事だということを改めて実感しました。
窓を設けないことが正解という場合もあるのです。
【湿度】
一日中エアコンをつけていて温度も高めの設定のため、相対湿度は40%前後と低めになっています。特に低いときには20%台にまで下がることもありました。室温を20度くらいにすれば40~50%程度を保つことができるのですが、家の中では軽装で過ごしたいので加湿器を使用して対処しています。
換気は全熱交換器を使用していますが、もともと室内外共に湿度が低い上に湿度に対しては交換率もあまりよくないので、湿度に対しての効果はあまり期待できないように思えます。
(湿度に関しては最近気にされる方が多いようですが、湿度計で表示される数値はあくまでも目安です。メーカーや機種によっては10%程度の違いが出ることもあります。湿度計を見ていて普段より数値が下がってきたら湿度が下がったなぁ、数値が上がったら湿度が上がったなぁ、と思うくらいの気持ちで湿度計を見て頂ければよろしいかと思います。あくまでも自分の感覚で、のどや目が乾きやすいと感じたら加湿を、壁や肌がなんとなくじっとりと感じてきたら除湿をしましょう)
【結露】
よく「高断熱高気密住宅は結露しない」と言うのを聞きますが、壁等やサッシ・ガラスの表面温度と室内の温度の差、室内の湿度、の条件によって結露が発生するので、絶対に結露することがないということはありません。
我が家のように室内の温度と湿度を高く保とうとすると、ガラスの周囲や時にはサッシ枠に結露することがあります。
ペアガラスは2枚のガラスの周囲にスペーサーというものが挟まれています。これが断熱的に弱点となって、ここからかなりの熱損失が発生します。そのためにガラスの周囲やそこに接しているサッシ枠が冷えて結露しやすい状態になっているのです。
また、サッシの内側にサーモスクリーンやカーテンなどを閉めた状態だと、サッシとの間に湿気がたまり結露しやすくなります。
ですが、いずれの場合も、屋外の気温が上がってくる7時~9時くらいになるとガラスなどの表面温度も高くなり、結露は蒸発してなくなってしまいます。
ペアガラスには樹脂スペーサーを使用すると格段に結露が少なくなります。
準防火地域内ではサッシの取付場所によって使用できないことがあるので注意が必要です。
【換気の影響】
どれだけ断熱性や気密性を良くしても、換気をすることで室内の空気が入れ替えられてしまいます。
そこで、外の新鮮な空気は取り込むけれど、その時に室内の温度だけを新鮮空気に還元する『熱交換換気』をすることで、室内の温度変化を少なくする方法を取ります。
とはいえ熱交換換気をしたとしても還元される熱は80%程度で、暖房しなければ部屋の温度は最終的に屋外の温度と同じになってしまいます。
参考:HOME > 超高性能2世帯住宅 > 空調計画
熱交換率80%で外気温度が10度下がると、吹き出される空気の温度は2度下がることになります。
実際、1月・2月の昼夜で寒暖差の激しい日は、夜に換気の吹き出し口から吹き出される空気がかなり冷たく感じます。
階間エアコンの暖房と換気の給気を混ぜて室内に吹き出す仕組みは、この換気による冷気を緩和するのに非常に有効な方法だと感じました。
レンジフードは室内の圧力を一定に保つため、同時給排気型を使用しています。これは熱交換を行うわけではないので、稼働すると外気が直接室内に入ってきます。室内の温度に影響しますが、給気と排気の位置が近いので影響範囲が少なく済みます。
排気のみのレンジフードでも差圧式の給気口を採用することで、レンジフードが作動していない時は給気をストップすることができるので、適切な場所に設置すれば同時吸排気型と同様の効果を得ることができます。
階間エアコンについて
■ 階間エアコンの良いところ
- 個別エアコンやダクトが不要、エアコン1~2台で各室冷暖房が可能。
- 壁掛けエアコンを1~2台設置するだけなので初期費用・交換費用が比較的安価。
- 部屋の壁に機械を付けないので、スッキリする。
- 壁の少ない部屋でも、建具の高さを天井まで取ることができる。
- 床に座ってエアコンの掃除ができる。
- エアコンの風が直接体に当たることがないので、不快感がない。
■ 階間エアコンの注意点
- どのメーカーも規定外の設置方法なので保証を受けることができなくなる。
- 部屋ごとの温度設定ができない。
- 1台のエアコンで建物全体の空気を循環させるうえに、風量が多いため家じゅうの空気を吸い寄せます。換気経路の途中に設置すると、換気扇にたどり着く前に大部分の空気が吸い取られてしまうことにもなります。匂いも一緒に吸い寄せて、エアコン付近に集中してしまうので設置場所は換気設備と合わせて十分に検討が必要です。
- 壁設置でも動作時は音がしますが、階間設置の場合は1階天井・2階床から音が聞こえます。慣れないうちは気になるかもしれません。
- エアコン本体の温度センサーを使用すると階間部分の温度を感知してしまって正しく動作しないので、ワイヤードリモコンなどを使って部屋の温度を感知する必要があります。(※センサーの切り替えを設定する必要がある場合があるので注意)
■ 階間エアコンのちょっと気になる…
- 《上下階の音漏れは?》
全く気になりません。上下同じ一時ガラリを付けたり、大きなガラリを付けたりしなければ全然問題ないのではないかと感じています。
高気密住宅特有の階段を通じて上下階に漏れる音は結構あります。 - 《ホコリは出てこない?》
完成後、エアコンを運転し始めてからしばらく(1ヶ月くらい)は木や石膏ボードの粉などが出てきているような感じがありました。内部の仕上がある程度終わってエアコンを設置したあと、試運転を兼ねて引き渡しまで送風運転を続けていれば、入居時には階間部分の浮遊粉塵が排出されるのではないかと思います。
エアコンフィルターや吹き出し口のガラリ、ブースターファンをこまめに掃除しながら1年間生活していますが、階間エアコンによるホコリを気にすることはなくなりました。
もちろん部屋にホコリがたまれば舞い上がることがあるでしょうが、それは壁掛けエアコンでも同じことです。 - 《2階の冷房は大丈夫?》
冷気は重いため、2階は階間の圧力を利用しつつブースターファンを使用して床から吹き上げる仕組みですが、サッシ面積の大きい部屋や広めの部屋では冷房が追い付かないことがあります。
直射日光が床や壁を温めないように遮光をしっかりとしたり、サーモスクリーン・外部ルーバーを設置するなどすると冷房が効きやすくなります。
どうしても部屋が冷えないときのために、小屋裏に予備エアコンを設置して2階の部屋を上から冷やすことも考えておいた方が良いです。 - 《リフォームで階間エアコンにできる?》
基本的にできないと思ってください。
柱と梁だけを残して、新築と変わらないような改修工事をすれば可能ですが、ちょっと仕上や間取りを変えるついでにという感じでやると失敗します。
階間エアコンの仕組みを作るには「断熱・気密がしっかりとできている」「2階の床にエアコンを設置できるスペースがある」「階間部分がきれい(ホコリなどがたまっていない)」「階間の隅々まで空気が行きわたるような梁などの構造になっている」など様々な条件をクリアする必要があります。結果的に大工事になってしまったり、冷暖房が全然効かないなど、問題が発生する可能性が大いに考えられるので、リフォームによる階間エアコンへの改造はやらないほうが良いでしょう。
リフォームで全館空調を考えるなら、素直に天井埋込のダクト式エアコンとした方が失敗は少ないと思います。
階間エアコンは全国的に採用され始めていますが、まだまだ始まったばかりのシステムで、どの工務店や設計事務所でも模索してしる段階ではないでしょうか。
今回初めて階間エアコンを採用した自宅で1年間生活してみて、気付くところが多数ありました。それらを改善しながら、自分なりのシステムを作っていけたらと考えています。
とにかく初期費用とランニングコストがかからず全館冷暖房できる階間エアコンは、非常に魅力のあるシステムだと思います。