空調計画


[超高性能2世帯住宅]
 

暮らしを快適に




この家の最大の特徴は階間エアコンを利用した全館空調システムです。

【階間エアコンとは】

新住協代表理事の鎌田先生が考案された、2階床下をチャンバーとするエアコン冷暖房の方法です。
1階天井と2階床にガラリを設置して、階間に送り込んだエアコンの空気を上下階の各部屋に同時に吹き出します。暖かい空気は軽く冷たい空気は重いため、特殊なファンを併用して家じゅうの温度を均一に保ちます。
この方式を利用すれば、一般的な壁掛エアコン1台で家全体を冷暖房することも可能となります。
※しっかりとした高断熱高気密住宅とすることが前提となります。

本物件の性能や各部の仕様は「住宅の概要」を参照してください。
エアコン、換気の仕様は下記の通り。

【階間エアコン】三菱電機 MSZ-BXV2819(10畳用)
暖房能力3.6kw
冷房能力2.8kw
【予備エアコン】三菱電機 MSZ-BXV2219(6畳用)
暖房能力2.2kw
冷房能力2.2kw
【第1種熱交換気】Panasonic FY-12VBD2SCL×2台
【その他換気】同時給排レンジフード×2台
トイレパイプファン×2台
浴室天井扇×1台

【空調システム概要】

冬の状態
夏の状態

この物件では1階と2階の階間にはエアコンのほか換気の空気も吹き込んでいます。
換気の給気温度は(熱交換を行っても)部屋の温度よりも冬は低いため、吹き出された空気が触れると寒さを感じます。その回避策として階間で換気とエアコンの空気と混ぜることにより、部屋の温度よりも冬は暖かく夏は涼しい風が吹き出される仕組みとしました。
また階間エアコンは1階と2階の空気を対流させるので、家全体の温熱環境を同質にする効果があります。
冬は階間エアコン1台で、夏は小屋裏の予備エアコンを併用して運用します。

■各階の空気の流れ

1階
階間エアコン
換気吹き出し
ブースターファン
熱交換気
天井ガラリ

エアコンは図の中央、キッチン流しの上部天井内、熱交換気は右上洗面脱衣室の壁に設置。どちらも天井内に吹き出します。

寝室1・玄関ホール・LDK1・洗面脱衣室へは天井に設置したガラリ(ブースターファン)(図中黄緑の四角)から、天井内の空気を部屋に吹き出します。
ガラリから吹き出した空気は、各部屋を通り洗面脱衣室の熱交換気で回収されます。一部は階段を通じて2階で回収されます。

2階
熱交換気
床ガラリ
スノコ天井
洋室天井
ブースターファン

図の中央エアコンは床下(階間)に吹き出します。
熱交換気は右上W.I.Cの天井に設置。ダクトで各部屋に吹き出します。

ガラリはLDK2の2ヶ所は床設置、洋室(子供室)×2室・寝室は天井に設置しています。

また、換気は各部屋にダクトで送っているので、各部屋天井に給気口を設置しています。

『冬』は、LDKの床ガラリからの暖房がホールで小屋裏に上昇し、小屋裏からブースターファンで各部屋に吹き降ろすことで全体的に温度がほぼ一定となります。
『夏』は、LDKの床からブースターファンで吹き出すほか、小屋裏のエアコンを利用して2階の各部屋の天井ガラリやホールのスノコ天井から吹き降ろします。

小屋裏収納
床ガラリ
取り出した状態
ブースターファン

小屋裏のエアコン(図中上部中央)は基本的に冷房用として使用します。冬季の寒さが厳しいときには臨時的に暖房として使用します。
3ヶ所の床ガラリは、2階の洋室2室と寝室に吹き出します。

【快適な屋内環境】

普段の経験から、快適に過ごすことができる屋内環境は、気温が24℃~26℃、湿度が40%~60%くらいではないかと感じています。
ただし、断熱気密がしっかりとできている家であることが条件となります。

断熱性・気密性の低い事務所では気温25℃・湿度45%の同じ温熱条件においても、自宅と比べて冬は寒く夏は暑く感じます。
外壁やサッシからの輻射のほか給気口やサッシの隙間などの影響で、部屋の中心と比べて外壁付近・床付近・天井付近の温度が違ってくるためと考えられます。よくかき混ぜていないお風呂で、下は冷たく上は熱い状態だと、お湯全体が冷たく感じる状況と似ています。
断熱気密がしっかりとしていて程よく空気が循環している家では、温度・湿度の管理を上手にすることで、部屋のどの部分もほぼ同じ温熱状態となり、いつでも快適なのです。

■エアコンの使い方

1年中快適に過ごすためには、その大半を窓を閉め切って過ごさなくてはならないので、効率よく冷暖房を行う必要があります。
以下はあくまでも関東以南の、それほど寒さが厳しくならない地域での考え方です。

・・・冬・・・
日中それほど寒くなることがない地域では、夜間に暖房を運転さて日中は停止させるやり方がいいのではないかと思うのです。
超高断熱・超高気密の住宅では昼はほとんど暖房が必要ないので、夜中に部屋の温度をガクンと下げて朝暖房で急激に温度を上げるよりも、夜間もエアコンで室温を一定に保っておくことで、昼間は暖房を切っても日射取得が効率で十分暖かいので、この方法が良いのではないだろうかというのが私の考えるところです。

・・・夏・・・
夜の12時頃まで30℃以上となるような日には、さすがに夜通し冷房する必要があるかと思いますが、日中は冷房運転、夜間は停止(送風)という使い方で良いと思います。
また夕方、外気温度が23℃~24℃くらいで湿度が高くない時には、窓を開けて外の空気を取り入れて室内の温度を下げると、夜間は冷房する必要はありません。

階間エアコンや床下エアコンは効き始めるまでに時間がかかるので、朝に当日の気温の変化を確認して、早めに運転を始めるとよいでしょう。

■換気の影響

どんなに断熱気密の性能をよくしても、換気扇を動かせば室内の空気は外に排出されて屋外の空気が室内に取り込まれます。それが換気なのだからあたりまえですね。
建築基準法ではシックハウス対策のためのに、24時間換気扇を稼働して家の空気を1時間当たり0.5回入れ替えるように義務付けられています。これによって2時間ごとに室内の空気と屋外の空気が入れ替えられることになります。
これは冷暖房をした室内の空気を2時間ごとに捨て続けいることにつながり、冷暖房のためのエネルギーや費用を捨て続けていると言い換えることもできます。
そのため熱交換気システムを採用することは、省エネや冷暖房費削減を考える上で非常に効果的です。

ただし熱交換気システムに過大な期待をしてしまうのは禁物です。
その効果を最大限に活用するためには、次のようなことに注意が必要です。

1.高断熱高気密が条件
熱交換気を採用したとしても、断熱気密性能が悪い建物ではその効果を発揮することができません。家の隙間や断熱の弱い部分からも熱が逃げてしまうためです。
2.冷暖房は必要
熱交換気をしたからといって、部屋の温度が一定に保たれるわけではありません
どんなに熱交換率のいい換気システムでもロスは出ます。冷暖房をしなければ、室内の温度は時間と共に外の気温に近づいていきます。
3.現状より冬暖かくなるとは限らない
「なぜ?」と思われるかもしれませんが、現状で真面目に24時間換気扇を動かし続けている方は少ないのではないかと思います。
トイレの換気扇に「24時間換気」のシールが貼ってあって、実際はトイレを使う時しか換気扇を回していない、というようなご家庭は多いのではないでしょうか。
そのような換気扇の使い方では比較になりません。
熱交換気システムが通常の換気より暖かいというのは、あくまでも24時間換気扇を動かし続けた状態での比較です。しかも冬暖かくなるのではなく、部屋が冷えにくいということなのです。
4.吹き出される空気は冬は意外と寒い
冬に給気口から吹き出される風は、部屋の温度よりも低いものとなります。
しかも風速も割とあるので、この風が肌に触れるとスースーと寒さを感じます。
そのため給気口を設置する場所には注意が必要です。
5.フィルターなどのメンテナンスが必要
機械の効率を保つため、定期的なメンテナンスが必要です。

以上のようなことを頭に入れた上で考えられる熱交換気システムのメリットは、以下のようになります。
・<快適>部屋の温度が変化しにくい
・<省エネ>
冷暖房エネルギー(費用)の節約になる


なんだかデメリットの方が多いような気がしますが、「快適」のメリットは大きいと思います。
家じゅう温度差の少ない快適さを求めるか、その温度差がストレスにならず生活できるかが選択の基準になるでしょう。


熱交換がある場合とない場合の室内温度の変化をグラフにしてみました。
条件として
・1時間に0.5回換気
・屋外は10℃で一定(冬季)
・熱交換気システムの熱交換率は80%
・換気以外で熱の出入りはない
としています。

縦軸:温度 横軸:時間

熱交換なしの黄色い線は、一直線に2時間後には外気と同じ10℃となります。
熱交換ありのオレンジ色の線は2時間ごとに20%ずつ温度が低くなり、なだらかな曲線を描いて外気の温度に近づいていきます。
2時間後の室温は
25℃-(25℃-10℃)×20%=22℃
4時間後
22℃-(22℃-10℃)×20%=19.6℃
表にすると下のようになります。

時間室内温度2時間毎の
温度変化
025.000.00
222.003.00
419.602.40
617.681.92
816.141.54
1014.911.23
1213.930.98
1413.140.79
1612.510.63
1812.010.50
2011.610.40
2211.290.32
2411.030.26
2610.820.21
2810.660.16
3010.530.13
3210.420.11


上のグラフを見ると、室内外の温度差が大きいほど、部屋と熱交換を利用した換気の温度差も大きくなるということが分かります。
例えば、室内の温度が一定のとき、冬に外が寒ければ寒いほど、換気口から吹き出される空気の温度が冷たくなるということです。

室内はエアコンで一定の温度のとき、屋外の気温が1℃ずつ下がった場合、熱交換気の給気口から吹き出される温度がどのように変化するかをグラフにしてみました。
条件として
・室内は25℃で一定(冬季)
・熱交換気システムの熱交換率は80%
・換気以外で熱の出入りはない

縦軸:温度 横軸:温度変化

グラフでは分かりにくいので表にします。

外気温変化吹き出し温度部屋と
吹き出しの
温度差
基準 (6℃)21.203.80
-1℃ (5℃)21.004.00
-2℃ (4℃)20.804.20
-3℃ (3℃)20.604.40
-4℃ (2℃)20.404.60
-5℃ (1℃)20.204.80
-6℃ (0℃)20.005.00
部屋温度25℃ 熱交換率80%


冬に暖房をしている部屋にいたとして、日没後外気が6℃下がったとき、換気で吹き出される空気の温度は1.2℃下がることになります。
この風が直接肌に触れると、なんだかスースー冷えてきたなぁと感じます。

わが家ではこれを極力避けるため、冒頭で書いたように、階間で換気とエアコンの空気と混ぜることにより、部屋の温度よりも冬は暖かく夏は涼しい風が吹き出される仕組みとしました。


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