高断熱高気密

高断熱高気密の住宅を作るためのノウハウについて、建築業界では各設計事務所・工務店・建材メーカー等によって日々さまざまなアイデアが生み出されています。
それらの情報や建築現場での経験をもとに、高断熱高気密住宅の概要と注意点をまとめてみました。

2020.11.16 改訂


【高断熱高気密住宅の概要】

年間を通して建物内部の温度を一定に保つことで、快適な生活を送ることを目的とします。
方法としては、建物の外周を断熱材と気密材ですっぽり覆うことで外気を遮断し、エアコンや換気扇で建物内の空気環境を調整しやすいものとします。断熱材で冬は室内の熱が逃げないように、夏は外部の熱が室内に侵入しないように、気密材で外部と内部の空気の侵入・流出を遮断します。

断熱の工法としては、充填断熱充填断熱+付加断熱(外部・内部)などがあり、現在は充填断熱、外部付加断熱が主流です。付加断熱とは、建物の構造体の外側または内側に断熱材を増し貼りするものを言います。以下は壁を水平に切った各工法の参考平面図です。


【どの程度の性能を目指すのか】

一般的に、断熱性能を示す値としてUA値またはQ値(旧基準)、気密性についてはC値、また夏期日射に対してはηA(イータ・エー)値またはμ(ミュー)値(旧基準)などが用いられます。

  • UA値=熱還流率
    建物を構成する部材の熱の通りやすさ。数値が低いほど性能が良い。
    壁や屋根などの部位ごとに、その部位を構成する部材の種類・組み合わせ・面積・方位などで変化します。
  • Q値=熱損失係数(旧基準)
    建物全体から逃げる熱量の割合。数値が低いほど性能が良い。
    U値が部材そのものの熱の伝わりやすさを示すのに対して、Q値は部材を通り抜けた熱量を示します。UA値と同様に部材の構成内容で数値が変化します。
    断熱性能を検討する場合、換気による熱損失を考慮するなど実際的な結果を得られるためQ値を使用する場合が多いです
  • C値=気密性能値
    建物全体に対して隙間がどれほどあるかを示す数値。数値が低いほど性能が良い。
  • ηA値=外皮平均日射熱取得率
    窓から直接入る日射の熱と、建物の部材を通して侵入する熱の割合。数値が低いほど性能が良い。
  • μ値=夏期日射取得係数(旧基準)
    夏期における日射の入りやすさ。数値が低いほど性能が良い。

メモ:Q値をUA値に換算する式 Ua ≒ 0.37Q ー 0.13(近畿大学岩前教授)

・断熱性能の目標
平成28年省エネ基準では最も寒い地域を1地域(基準UA値0.46W/m2K)として、最も温かい地域の8地域(基準UA値基準なし)までを区分けして断熱性能の基準を設けています。
平成28年省エネ基準 地域区分
関東はおおむねの地域が地域区分5か6に該当し、基準UA値は0.87W/m2K(区分5~7は全て同じ)(旧基準ではQ値2.7)で、この基準を満たすことは充填断熱だけでも十分可能です。
しかし、より断熱性能を高めて(関東では)Q値1.5未満(UA値0.425程度未満)とすることで年間の冷暖房エネルギー消費を(省エネ基準住宅とくらべて)半分以下とすることが可能です。そのため快適に暮らすための断熱性能の目標としてQ値1.5未満(関東以南の地域において)とすることが理想的です。
※サッシやガラスの断熱性能が向上ていることにより、関東以南では窓の配置等プランを工夫することで、付加断熱なしでもQ値1.5未満とすることが可能となってきました。

・気密性能の目標
空調の効率性を高める、つまりなるべくエアコンを稼働させないですませるためには、気密性を高めることが非常に重要です。
どれだけ断熱材の性能を良くしても、室内の空気が外に漏れたり、外の空気が室内に入ってきてしまったりするとその効果は十分に発揮されません。壁内の結露を防止するためにも気密を良くしなければなりません。
次世代省エネ基準(旧基準)では北海道・東北でC値2.0cm2/m2、それ以外の地域でC値5.0cm2/m2とされていました。ところが換気扇と給気口による第3種換気ではC値5.0で80%、C値2.0で75%もの外気が給気口以外の隙間から入り込むことになるのです。
高気密住宅の目標C値は一般的に1.0cm2/m2とされていて、これは新築の鉄筋コンクリート造マンション程度の数値で、外気の流入は50%程度となります。さらにC値0.6cm2/m2まで気密精度を高めると外気の流入は40%程度に抑えることができます。

・日射取得について
日射熱を多く取り込むことは暖房効率を良くするために有効ですが、反面夏期の冷房効率は悪くなります。
そのため計画段階で、窓の方位や大きさ、庇の出の寸法、特に夏の日射遮蔽対策など詳細に検討することが大切です。

【高断熱高気密住宅のメリット】

  • 年間を通して室内を一定の気温に保つことができて快適。
  • エアコンの稼働率を抑えることができて経済的。
  • 床下エアコンで全館暖房するなどの工夫でエアコンの設置台数を減らすことができ経済的。
  • 全館暖房することで居室とトイレなど温度差が少なくなりヒートショックなどの事故を防ぐことができる。
  • 1階と2階の温度差が少なくなる。
  • 省令準耐火仕様と重複する工法が多々あるため、容易に準耐火仕様とすることができる。(主に一部の天井下地石膏ボードの使用変更が追加となるだけ)
     ※省令準耐火仕様とすすることで火災保険料を50%以上節約することができます。

【高断熱高気密住宅のデメリット】

  • 工事作業量が多く手順も複雑なため工期が長くなる。(外部付加断熱の工程は雨による影響が大きい)
  • 内部付加断熱とした場合、工期の短縮は望めるが、部屋の有効面積が狭くなる。
  • 材料や手間が増えるため、初期費用がかかる。
  • ファンヒーター等の燃焼型のストーブを使う場合、直接屋外に排気できるFF式とする必要がある。
  • 床下エアコンの場合はエアコンがきき始めるまでに時間がかかる。
     

上記メリットを生かしつつ、デメリットによる負担をいかに軽減するかが工夫のしどころです。

【高断熱高気密住宅の注意点】

  • 建物は東西に細長く。
    これは断熱住宅に限らず昔から言われている建築計画の基本です。吉田兼好の「夏をもって旨とすべし」に則って、南北に風が抜けやすいよう建物を東西に細長く配置するのが理想とされてきました。
    これは断熱住宅においても非常に有効です。東西の壁やサッシからの熱損失は比較的大きいので、この面積を少なくすることは断熱に対して有効です。また南面のサッシの面積を増やすことで、冬場に日射熱をたくさん得ることも有効です。(夏に日射を取り込まないよう庇を設けるなどの対策は必要です)
    これから土地を探される方は、東西に細長く家を配置出来て、南側に庭ができるくらいの余裕がある土地を見つけられたなら最高です。
  • サッシは樹脂サッシまたは樹脂とアルミの複合サッシにLow-E複層ガラスが必須です。
    サッシは建物の中で最も熱損失の大きい部分です。開口部を大きくとることは日射熱を得るのに非常に有効ですが、その分熱の損失も増えます。熱損失を抑えるためには断熱性能の良いサッシやガラスを選択することが不可欠です。最近ではトリプルガラスを使用する事例もふえてきています。
    又、サッシ本体の室内側を樹脂としたり、複層ガラスを使用することで結露を防ぎます。
  • 室内空気環境の対策についての計画はとても重要です。
    特に換気については熱交換型換気扇の設置をお勧めします。熱交換型換気扇とは、排出される空気の熱を利用して給気される空気の温度を室内の温度に近づけて取り込む換気扇です。排気だけでなく給気も機械的に行うため第1種換気に分類されます。
    建築基準法に定められているシックハウス対策のための換気量は、通常トイレに付ける安価なパイプファンで事足りますが、そのための給気は壁に穴をあけただけの給気口から取り入れることになります(第3種換気)。シックハウス対策基準では1時間で0.5回、部屋の空気を入れ替えるようになっているので、せっかく温めた(冷やした)部屋の空気が2時間でまるまる外の冷たい(熱い)空気と入れ替えられてしまうのです。
    これではどんなに壁やサッシで断熱・気密をしても台無しです。1台当り30~50万円程度の初期費用がかかりますが、高断熱高気密住宅であればエアコン台数を減らすことができるので、換気扇のコストを吸収することが可能です。
    どうしても第3種換気としなければならない時は、給気口の位置をエアコンの近くに設置するなどして、室内と給気の温度差を少なくする工夫が必要です。
    レンジフードについても通常は排気専用のものを選択されることが多いですが、高気密な住宅では同時吸排気型のレンジフードを選択することをお勧めします。差額も3万円程度で金額は通常のものとあまり変わりません。給気・排気を機械的に行うので室内が負圧になりにくい、レンジフード本体で給気・排気を行うので部屋の他の空間への温度の影響が少ない、というメリットがあります。
  • 冷暖房や換気と共に加湿についても配慮が必要です。
    特に冬季は湿度が低くエアコンを稼働させた室内では常に乾燥した状態になります。風邪をひきやすくなるなど健康にも影響をおよぼすため、加湿器を使うなどして湿度を保ちます。
  • 床下エアコン(階間エアコンも同様)とする場合、周辺の気密をしかっりとして床下(階間)の空気圧を高くすることで、エアコンから吹き床ガラリまでの距離などに関係なく、どのガラリからも同等の風量が吹き出されるようにします。
    床下エアコンを設置した状態
    UFAC_open.jpg(150522 byte)
    気密した状態
    UFAC_close.jpg(150522 byte)
  • 計算通りの断熱性能を確保するには、施工の精度が非常に重要になります。
    設計の時点でどんなに性能の良い設計をしても、正しく施工されていなければ十分な性能を得ることができません。工事には高断熱・高気密についてしっかりした知識のある工事業者を選ぶことが重要です。
  • デメリットのところでも書きましたが、建売りのような住宅と比べて大変手間のかかる工事なので十分な工期を見込んでおく必要があります。また大半の方にとっては人生で最も高額の買い物になるので、後悔の無いよう納得のいくまで計画を詰めることのできる期間も必要です。
  • 断熱性能のランクについては平成28年省エネ基準がひとつの目安となりますが、対費用効果を最大限に得るためにはこの基準を満たすだけでは十分ではありません。高断熱とすることで毎年節約できる冷暖房費を長期的に考え、目標とする性能値を設定することが重要です。

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