家づくり

正しく知る熱交換気

熱交換気、熱交換換気、熱交換型換気、熱交換器式換気・・・
どう呼んだらいいのかよくわかりませんが、メーカーでは機械を「熱交換気システム」とか「熱交換気ユニット」とか呼んでいるようなので、そういう機械を使う換気方法を「熱交換気」と書くようにしています。

『正しく知る熱交換気』とタイトルを付けましたが、今回はその機械とか仕組みについてのお話しではありません。
熱交換気は冬暖かく、夏涼しい」というような謳い文句について正しく知っていただきたいという内容です。

巷では、24時間換気を熱交換換気にすれば冬も寒くない!、などのキャッチ―な宣伝文句と共におすすめされることも多いですが、導入前の期待があまりに大きくて設置後にがっかり、という話もあるようです。
ここで熱交換気の注意点や効果について正しく知り納得したうえで導入を検討いただければ幸いです。

どんなに断熱気密の性能をよくしても、換気扇を動かせば室内の空気は外に排出されて屋外の空気が室内に取り込まれます。それが換気なのだからあたりまえですね。
建築基準法ではシックハウス対策のために、24時間換気扇を稼働して家の空気を1時間当たり0.5回入れ替えるように義務付けられています。これによって2時間ごとに室内の空気と屋外の空気が入れ替えられることになります。
これは冷暖房をした室内の空気を2時間ごとに捨て続けていることにつながり、冷暖房のためのエネルギーや費用を捨て続けていると言い換えることもできます。
そのため熱交換気システムを採用することは、省エネや冷暖房費削減を考える上で非常に効果的なのですが、導入には注意が必要です。

■熱交換気の注意点

1.高断熱高気密が条件
熱交換気を採用したとしても
断熱気密性能が悪い建物ではその効果を発揮することができません
家の隙間や断熱の弱い部分から熱が逃げてしまうためです。

2.冷暖房は必要
熱交換気をしたからといって
≪部屋の温度が一定に保たれるわけではありません≫
どんなに熱交換率のいい換気システムでもロスは出ます。冷暖房をしなければ、室内の温度は時間と共に外の気温に近づいていきます。

3.現状より冬暖かくなるとは限らない
「なぜ?」と思われるかもしれませんが、現状で真面目に24時間換気扇を動かし続けている方は少ないのではないかと思います。
トイレの換気扇に「24時間換気」のシールが貼ってあっても、実際はトイレを使う時しか換気扇を回していない、というご家庭は多いのではないでしょうか。
そのような換気扇の使い方では比較になりません。
≪熱交換気システムが通常の換気より暖かいというのは、あくまでも24時間換気扇を動かし続けた状態での比較です
しかも
≪冬暖かくなるのではなく、部屋が冷えにくい≫
ということなのです。

4.冬に吹き出される空気は意外と寒い
冬に給気口から吹き出される風は、部屋の温度よりも低いものとなります。
しかも風速も割とあるので、この風が肌に触れるとスースーと寒さを感じます。
そのため給気口を設置する場所には注意が必要です。
とはいえ、直接外気を取り入れる換気と比べると、かなり部屋の温度に近いものであることは間違いありません。

5.フィルターなどのメンテナンスが必要
機械の効率を保つため、定期的なメンテナンスが必要です。
各メーカー、各機種ごとに手入れをする時期や方法が異なるので、メンテナンス性は機種選択のための重要な要素であると言えます。

6.レンジフードは同時給排型がおすすめ
熱交換気と同時給排型レンジフードはセットで検討する必要があります。
第1種換気である熱交換気では機械的にバランスよく給気と排気を行うため、室内の気圧の変化がほとんどない状態に保たれます。もちろん気密が非常によい家での話です。
通常のレンジフードは排気のみを行うので給気口を別に設置する必要がありますが、同時給排型レンジフードでは本体に排気と同時に給気を行うユニットが組み込まれています。
通常のレンジフードでも機械から近い位置に差圧式給気口を設けることができれば同じようなことなのですが、屋内が負圧になりやすいので注意が必要です。

※ 後半で上記についての詳細に触れていきたいと思います。

■熱交換気のメリットは?

熱交換気の大きなメリットとしては

・<快適>部屋の温度が変化しにくい
・<省エネ>冷暖房エネルギー(費用)の節約になる


の2点に尽きるのではないかと思います。
上記の注意点でのマイナス面があるにもかかわらず、熱交換気をお勧めするのは『快適』のメリットが大きいというのが理由です。
熱交換気を採用した家に住んでみると、家じゅうの温度差が本当に少ないことを実感し、家の中での温度差がどれだけ不快であったか実感します。

採用にあたっては
≪家じゅう温度差の少ない快適さを求めるか、もしくは、その温度差がストレスにならず生活できるか≫
が選択の基準になるでしょう。

■冬の換気が寒くない?

熱交換気で部屋の温度が一定に保たれるわけではないと前述しました。
換気による室内温度の変化を、熱交換がある場合とない場合でグラフにして比較してみました。
※以降、あくまでも換気のみを対象としているので、実測の値とは異なります

条件として
・1時間に0.5回換気
・屋外は10℃で一定(冬季)
・室内温度は25℃からスタート
・熱交換気システムの熱交換率は80%
・換気以外で熱の出入りはない(建物の蓄熱・輻射熱は無視)
としています。

熱交換なしの黄色い線は、一直線に2時間後には外気と同じ10℃となります。
熱交換ありのオレンジ色の線は2時間ごとに20%ずつ温度が低くなり、なだらかな曲線を描いて外気の温度に近づいていきます。
2時間後の室温は
25℃-(25℃-10℃)×20%=22℃
4時間後
22℃-(22℃-10℃)×20%=19.6℃
というように下がっていって、外気の温度に近づくほどカーブがゆるくなっていきます。
以上のように考えると
≪熱交換気は『冬に比較的寒くなりにくい』換気方法である≫
ということができます。
また上のグラフを見ると、室内外の温度差が大きいほど、部屋と熱交換を利用した換気の温度差も大きくなるという特徴があることが分かります。
つまり、冬に室内の温度が一定のとき、外が寒ければ寒いほど、換気口から吹き出される空気の温度が冷たくなるということです。

それを踏まえて、室内はエアコンで一定の温度のとき、屋外の気温が1℃ずつ下がった場合、熱交換気の給気口から吹き出される温度がどのように変化するかをグラフにしてみました。
条件として
・室内は25℃で一定(冬季)
・屋外は6℃からスタート
・熱交換気システムの熱交換率は80%
・換気以外で熱の出入りはない(建物の蓄熱・輻射熱は無視)

冬に暖房をしている部屋にいたとして、日没後外気が6℃下がったとき、換気で吹き出される空気の温度は1.2℃ (6℃×20%)下がることになります。
この風が直接肌に触れると、なんだかスースー冷えてきたなぁと感じます。
そのため、換気の風が肌に触れない位置に給気口を設置するなど気を付ける必要があります。

■熱交換気は安い?

熱交換気を使用することで、どれだけ冷暖房費を節約できるのでしょうか。みなさん気になるところではないかと思います。
住宅の仕様を入力することで断熱性能や年間の冷暖房費を計算できるプログラム、QPEX(新住協)を使用して試算してみました。

QPEXには上のような延べ面積120m2ほどの標準的な間取りで、熱交換気なしの時に省エネ基準をギリギリに満たすことのできる仕様で作成されたデータがあらかじめ入力されているので、それを利用して比較してみます。
熱交換気の熱交換率は暖房80%、冷房72%とします。
電力単価は30円/kWhとします。
大まかな比較を見るだけなので、その他の細かな条件についての説明ははぶきます。

熱交換あり熱交換なし差額
85,896101,282-15,386
省エネ基準レベル比較(単位:円/年)

年間の差額は約15,000円とでました。
弊社が取り組んでいるQ1.0住宅では、年間の冷暖房エネルギーを省エネ基準の30%以下とすることを目標とするため、同じ間取りで性能を高めた仕様でも比較してみます。
(Q1.0レベルは数字が大きいほうが断熱性能が良いものです)

Q1.0レベル熱交換あり熱交換なし差額
Q1.0-Level238,36553,002-14,637
Q1.0-Level331,50945,655-14,146

断熱の性能が良くなると冷暖房費自体が下がるため、差額もそのぶん下がります。
ちなみに、熱交換のために必要な電力も考慮して計算されています。

仮に機械や施工費の差額を30万円くらいで年間冷暖房費の差額が約1.5万円として、これだけで元を取ろうと思うと20年かかることになります。その間、フィルター交換などの費用で数万円も必要です。
超高断熱高気密なのでエアコン2台程度で空調する計画とすれば、エアコン3台分減らすことができるので、初期費用はプラスマイナスでゼロと考えることもできます。

こうしてみると熱交換気は安いと言い切ることは難しいですね。
費用の面でもやはり『快適さ』が選択のカギとなってきます。
とはいえ、冷暖房にかかる消費エネルギーは明らかに減っているので、『省エネ』であるということは間違いありません。
トータル的に省エネ基準にかかるのと同じくらいの費用で、快適に暮らすことができる、くらいに考えるといいかもしれませんね。


■快適か否か

結論として、熱交換気を採用するかどうかの決め手は、快適か否かということに尽きると思います。
気密がよく屋内の温度を均一で一定に保つことができる家ほど、換気の空気による温度差が気になるようになり不快感を感じるようになります。
≪快適な家をつくるためには、換気気方法の選択は非常に重要な要素となります≫

換気方法の選択はどうしても費用がかかわってくる問題なので、非常に悩ましい部分です。
換気方法の違いによる快適さが費用に見合うだけの価値があるかどうかというのは、実際に体験してみないとわからないかもしれません。
体験してみるとその違いは明らかなので、実はさらに悩む結果になるので『知らぬが仏』で済ませてしまうというのもありでしょうか。。。

超高断熱高気密のQ1.0住宅を設計するにあたっては、熱交換気を採用しないという選択はほぼありません。熱交換器の有無で冷暖房エネルギーの削減率は20%近く変わってくるのです。Q1.0住宅には熱交換器が不可欠ということができます。

関連:超高性能2世帯住宅 > 空調計画 > 【快適な屋内環境】

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