住宅の省エネ性能「説明義務化」について
今年(2021年)4月から、建築士は住宅の設計をしたときに、省エネ基準に適合しているかどうかを建築主に説明することが義務化されます。
設計者(建築士)は基準に適合している・いないを説明するだけでよく、基準に適合させる必要はありません。但し、適合していない場合は、適合するための改善案とそれにかかるおおよその費用を示す必要があります。
’これだけの追加費用で基準に適合させることができます’、という提案をして建築主が判断したうえで選択できるということですね。
そもそも省エネ法の改正の話がでてきた当初は、住宅でも省エネ基準に適合させることが必要となるはずでした。それが最終的には「説明義務」の範囲に縮小しこのたび開始されることになったというわけです。
これから家を新築しようとしているかたは、設計者から
「省エネ基準に適合させますか?」
とか
「省エネ基準に適合しませんが、ご予算を〇〇万円追加していただくことで適合させることができます。いかがいたしますか?」
などという質問を受けるようになることと思います。
いきなりそのような質問をされても(省エネ基準てなに?)(それはそうしなければいけないの?)などなど頭の中が’???’となってしまうことでしょう。
以下をお読みいただいて(住宅についての)「省エネ基準」とはどのようなものか、よく理解していただけましたら幸いです。
説明義務の疑問
省エネ基準は最低限の基準
省エネ基準はCO2排出量削減のための取り組みの一環として、建築物で使用するエネルギーを減らすように定められている基準です。
住宅に対しては断熱性能の基準が決められていて断熱性能を良くしたうえで、エアコンや照明器具などを効率の良い製品とすることで電気やガスの使用量を減らし、石油やガスなどの一次エネルギーの消費を減らすことが目的となります。
また一次エネルギーの中でも、使用を続けても資源がなくなる心配のない再生可能エネルギー(太陽光、風力など)は省エネに有効として利用を推奨されています。
省エネ基準の断熱性能は等級4が最高等級とされています。
それよりさらに厳しい基準としてZEH(Zero Energy Hose:ゼッチ)、HEAT20などがあります。
これらの基準ではUA値を用いて断熱性能を判定します。
(UA値=熱貫流率:建物を構成する部材の熱の通りやすさ。数値が低いほど性能が良い。壁や屋根などの部位ごとに、その部位を構成する部材の種類・組み合わせ・面積・方位などで変化します。)
UA値は建物の部材の熱の通りやすさから、建物全体の熱の逃げやすさを表す数値ですが、実際には換気によっても熱がかなり逃げてしまうため、現実的な省エネ性能を求めるには換気による熱損失を考慮する必要があります。また夏の日差しを避けるため庇を付ける場合は、冬の日射取得熱も少なくなるので、これも考慮しなければなりません。
UA値のみで断熱性能を判断する基準は中途半端なものであると言わざるを得ません。
省エネ基準、ZEH、HEAT20などの基準を、クリアすることはそれほど難しいことではありません。
サッシや壁などの性能を上げるだけでUA値は簡単に下がります。
問題なのは一部の部材を性能の良いものに変えるだけで、建物全体のUA値が下がってしまうということです。
極端な例ですが、アルミ樹脂サッシを3本ほど使って、他は全てアルミサッシというプランでも基準をクリアすることは可能となっているのです。
そのような無理やり基準に適合させたような建物が、省エネ住宅であるわけがなく、ましてや快適な家であるはずもありません。
「うちは省エネ基準をクリアしているので冬暖かく夏涼しいですよ」
とか
「省エネ基準なんか適合しても今までと変わりませんよ」
などと誇らしげに言う工務店や設計者がいるとすれば、その人は温熱環境や省エネについて何も考えていないか知識を持っていません。
今時の住宅は、省エネ基準などクリアして当然で、温熱的に快適な家とするにはエネルギー消費を省エネ基準の何分の一に抑えるかが検討のポイントとなるのです。
省エネ基準ギリギリの住宅は、例えると≪なんとかインターネットを見られる程度のパソコン≫と思っていただけると良いかと思います。
とにかく用は足りるけど、何をするにも時間がかかるし止まってしまったりして、快適に使うにはもっと性能を良くした方がいいような状態、といった感じでしょうか。。。